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事業承継について

2013/11/15

婚外子問題 遺産の公益性

最高裁平成25年9月4日決定は、父母が結婚していないからという理由で婚外子の法定相続分を嫡出子の二分の一とすることは、「子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすこと」だから不当な差別だと断定し、婚外子の法定相続分を嫡出子の二分の一と定める民法900条4号但し書きに規定は、法の平等を定める憲法14条に違反すると結論づけています。

 

子のほうでは選択の余地がない事で子を差別するのは違法だという論理は説得的ではありません。

 

最高裁は、この決定の前提として、法定相続分が均等でないことだけで憲法違反になりうるという、実に説得性のない論理に立ち、ある特定の大きさの遺産が嫡出子に帰属する場合と婚外子に帰属する場合と、その社会的意味は同じであると言う仮定の上に立っています。

 

しかし、この仮定は自明ではありません。最高裁もこの仮定を実はまったく論証していないのです。

 

特定の遺産が嫡出子に帰属する場合の社会的意味と婚外子に帰属する場合の社会的意味の違いを分析しなければ、ある特定の法定相続分帰属割合が、婚外子にとって不利益を及ぼすかどうかは判断できないはずです。ところがこの最高裁決定はそのような分析をまってやってもいません。最高裁は自分で出した決定が現実の社会で、どういうことを意味することになるのか、実はわかっていないのです。

 

私は遺産相続においては婚外子の法定相続分を嫡出子の半分とすることには合理性があると思います。その根拠は、財産には私的性質と公益的性質の二面があることに根ざしています。

財産の機能という観点から考えると、財産は所有者にとってのみ意味を持つものではありません。所有者の家族、所有者が経営する企業の従業員、その企業の仕入れ先、納入先のためにも必須不可欠な機能を持つっています。つまり、その財産がどのような性質の財産であるかによって、その財産の私的性質よりも公益的性質が顕著に現れることもあるのです。

公益的性質は、その財産が、小規模企業、中規模企業の生産活動の基礎である工場敷地、工場建物、生産設備、特許、知財など収益活動に貢献する財産である場合に顕著に表れます。

 

日本の企業は小規模企業、中規模企業だけではなく、トヨタ自動車、竹中工務店、サントリーが典型ですが、大企業も含め、同族企業の割合がきわめて高いのですから、遺産の公益性が現れやすい体質があるといえるのです。

 

婚外子にとって同族企業が自分にとっての遺産になっている場合を考えて見ますと、遺産は、その遺産が形成される過程で部分的にであれ、他の人たちと協同して、自己の労働をも提供した結果得られたものではありません。つまり自己の所得であるという性質はまったくありません。

 

しかも将来的にも、他の人々と協同してその遺産に自己の労働を加えて付加価値を向上させる機会さえ考えられない異物です。したがって、婚外子からみれば、故人となった経営者の財産は、自分の外部によそよそしく立ち上がっている物体にしかすぎませんから、婚外子にとって遺産は単に自分が私的に奪うべき財産にしかすぎません。

 

つまり、遺産は自分個人との私的な関係性しかあり得ようもないのです。

 

ところが、嫡出子にとっては、その遺産は、それが形成される過程に部分的にであれ、他の人たちと協同して、自己の労働をも提供した結果得られたものであるか、将来的には他の人々と協同してその遺産に自己の労働を加えて付加価値を向上させる機会が与えられる、いわば自己の血肉を分かち与えるべき財産です。

 

したがって嫡出子にとっては遺産は自分が奪う必要のない、協同して付加価値の向上に努めてきた仲間たちとともに共有すべき内なる財産ですから、その遺産は他の人々共に分かち合うべき公益的性質をもっているのです。

 

 

婚外子の法定相続分をどう考えるかと言う問題は、そもそも遺産というものが、それを手に入れたいと欲するひとにとって、自己の労働の対象となりうるか否かによって、まったく社会的意味が異なり、同一物でありながら、所得拡大にまったく貢献することがない場合と、所得拡大に貢献する有意義な場合とがあるのです。所得拡大に貢献しないのに、婚外子の法定相続分が嫡出子とそれと均等とすべき合理的理由はないといういべきでしょう。

 

特に、このような矛盾が顕著にあらわれる財物は、企業の株式です。数においては企業数のなかで圧倒的な割合を占める小規模企業、中規模企業においては、遺産はその故人が代表者であった会社の株式以外には、ほとんど見るべきものはないという場合が多いのです。

 

日本だけとは思いませんが、日本という国は、家族を核とした小規模企業が圧倒的に多いのです。農業や漁業、飲食店、八百屋、酒屋、それに医院、税理士、弁護士、司法書士などを含め、小規模企業が圧倒的な数です。

 

そして、それは時代おくれでも恥ずべきことでも決してなく、実は我が国が誇るべき国力の中心です。それだけに、遺産が株式である場合における婚外子の遺産分配請求の法的性質を検討しておく必要性は高いのです。

 

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2013/09/12

婚外子相続分2分の1違憲は家業を潰す

婚外子相続分2分の1違憲は家業を潰す         弁護士 後藤孝典

 

最高裁平成25年9月4日決定は、父母が結婚していないからという理由で法定相続分を嫡出子の二分の一とすることは、「子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすこと」だから許されないと非難しています。最高裁はその理由を、

①昭和22年の民法改正以降、国民の家族感が変化してきた

②諸外国で婚外子差別外撤廃されてきた、ことに置いています。こんなことが理由になるわけがありません。

 

まず晩婚化、非婚化、少子化、中高年の未婚の子が親と同居する世帯、単独世帯が増加、離婚件数増加、再婚件数増加、家族感がどのように変化したのは確かでしょうが、大事なことはどう変化したか、です。

 

この点が最高裁は上記①に対応して

(イ)『昭和50年前半ころまでは減少傾向にあった嫡出でない子の出生数はどその後現在に至るまで増加傾向が続いているほか』、晩婚化、非婚化、少子化、中高年の未婚の子が親と同居する世帯、単独世帯が増加、離婚件数増加、再婚件数増加、「これらのことから、婚姻、家族の形態が著しく多様化しており、これに伴ない、婚姻、家族の在り方に対する国民の意識の多様化が大きく進んでいる」ことを理由としてあげている。

 

しかし、これがどうして嫡出子でない子の法定相続分を嫡出子と同じにしなければならない理由になるか、だ。

最高裁は嫡出子ではない子の出生は昭和50年前半ころまで減少していた、その後現在に至るまで増加しているとして、嫡出でない子の増加は嫡出子でない子の法定相続分を嫡出子と同じにしなければならない理由と一つして位置づけている。

しかし、戦前は現在とはけた違いに嫡出でない子の出生は多かったのだ。

1925年は出生数に対して7.26%、

1930年は6.44%、

1940年は4.1%

ボトムを迎えるのは1978年で0.77%、

それから増加に転じているが2011年に2.22%、

2012年に2.23%のていどに過ぎない(以上いずれも人口動態統計から)。

最高裁の論理でいえば、戦前ではなぜ嫡出子でない子の法定相続分を嫡出子と同じにしなければならない理由が成立しないのか、おかしいではないか。

 

晩婚化、非婚化、少子化、中高年の未婚の子が親と同居する世帯、単独世帯が増加、離婚件数増加、再婚件数増加などが事実であろうと、これらは家庭が壊れてきているということであって、なぜ家庭が壊れてくると、嫡出子でない子の法定相続分を嫡出子と同じにして、もっと家庭を壊さなければならないことになるのか、おかしいではないか。

 

最高裁は②に対応して

(ロ)ドイツフランスでは嫡出子でない子の法定相続分を嫡出子と差別する立法が撤廃されている、「差異を設けている国は、欧米諸国にはなく、世界的にも限られている」と言っているが、なぜこれが嫡出子でない子の法定相続分を嫡出子と同じにしなければならない理由になるのか。

 

最高裁は、家庭を個人が棲むところ位にしか思っていないようだが、家庭は古来家業を遂行する場所なのだ。 家業(もちろん農業・漁業を含め)においては、家産の承継は死活的に重要な意味をもっている。

全国の企業総数約420万社のうち99%は小規模、中小企業で、同族企業だ。この小規模、中小企業、同族企業が日本の産業の基盤をなしている。このように小規模、中小企業にとっては、遺産の最重要部分は中小企業の生産施設とか当該企業の株式であるから、その企業の生産と収益向上に貢献する可能性の高いほうに法定相続分を多くするのが合理的である。

家庭の外にいて、家産の承継ではなく、家産の取得だけを考えるものに対して、厳しくすることには合理性がある。家産の集中、累積は、単に物的財産の蓄積ではない。知識と技術の蓄積でもある。いわば、日本の国力なのだ。最高裁の裁判官たちは、家業とか老舗とか、事業を継続し、承継することの重要性を理解していない。

 

 

パリには「エノキアン協会」という名前の経済団体があり、これに参加できるのは創立以来200年以上の歴史がある企業で、しかも創業者の子孫が現在も経営を続けている優良企業だけに限定されている。伝統企業が名を連ねており、イタリア16社、フランス12社、日本からは4社が参加して、ドイツ4社、スイス2社、オランダ1社、北アイルランド1社、ベルギー1社、合計で8カ国、41社が参加している。そのうち、一番古い企業は実は、それは日本で、石川県小松市にある「法師旅館」だ。

718年(養老2年)の創業で、ギネス・ワールド・レコーズには「世界で最も歴史のある旅館」として登録されている。日本企業はほかに、虎屋(1526年京都で御所御用菓子商として創業、遷都ともに東京へ)、月桂冠(1637年創業)、岡谷鋼機(1669年創業)、赤福(1707年創業)が参加している。

 

日本の老舗企業のうち、創業以来100年以上経過している企業の数は、宗教法人、学校法人、医療法人など非営利法人を別にして、2008年現在で1万9518社あり、そのうち200年以上経過している企業は938社、300年以上が435社にのぼっている。

 

老舗企業がわれわれの周辺に存在している。日本は長寿企業の数では世界一だ。これは日本が誇るべきことだ。なぜこれほど長寿企業が多いのか。その理由の一つは、家業を大事にし、家産を分散から防御してきたからだ。このような日本が、なぜフランスドイツなんぞの真似をしなければならないのか。これは日本の国力を減少させることになる、恥ずべき決定というべきだ。

 

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2013/08/15

消費税が上がると、中小企業はどうなる①

                                                                                弁護士 後藤 孝典

 

消費税率改定実施が微妙な段階に差し掛かったようだ。

 

8月12日内閣府が公表した2013年4~6月期のGDP速報値が実質で前期比0.6%増、年率換算で2.6%増になった。個人消費が伸びたほかに、輸出も好調であったが、企業の設備投資は0.1%減少した。

 

マイナスは6四半期連続だが、その減少率は3四半期連続で縮小していたという。甘利経済財政・再生相は、消費税増税に向けて「材料の一つとして、引き続いてよい材料が出ている」の述べたが、「問題は設備投資だ」との考えを強調した、と日経は報じている。

 

翌13日の日経は、安倍首相が法人税の実効税率の引き下げを検討するよう関係省庁に指示したと報じ、これは来年4月に消費税増税を決めた場合、法人税の引き下げ方針をあわせて打ち出し、景気の腰折れ懸念を払拭する狙いだ、と朝刊一面で論じている。いかにも、来年4月から消費税増税は不可避のニオイがするものの言い方だ。

 

もし、この秋に、首相が来年4月からの消費税増税の「施行の停止」(消費税法付則18条3項)をかけないとすると、中小企業はどのような影響を受けることになるだろうか。

 

懸念されるのは、中小企業金融円滑化法の期限切れに直面した本年3月末の時点で、倒産が予測された約4万強の中小企業のことだ。4万強という数字は、全国420万の中小企業総数のうち、金融円滑化法でリスケを受けた企業の数がその1割りの約42万強であったことを基礎に、転業も事業再生もできず、廃業に追い込まれるのは、そのさらに1割強程度であろうと私が推測した数字だ。

 

幸い、第二次安倍内閣の成立により財務大臣兼金融担当大臣の要職についた麻生太郎氏は、それまでの金融庁と中小企業庁が行ってきた、実効性の弱い、法的根拠も薄弱な「行政指導」的施策によらず、見事なほどに短時間で、「金融円滑化法期限切れによる中小企業の大量倒産の危機」を終息させた。

 

麻生太郎氏は、彼一流の諧謔を交えながら、立ち直りの見通しが暗い中小企業を金融のうてなから放り出そうとする金融機関に向って、そんなことは許さないぞという「恫喝」も加えたのだろうと推測しているが、それよりも、はるかに見事であったのは、マイルドなインフレーションの実現によって問題を解決するという方策を取ったことだ。

 

これは私の推測ではある。しかし、安倍内閣が2%のインフレの実現によってデフレを脱却するという政策を打ち上げ始めた時期と、「金融円滑化法期限切れによる中小企業の大量倒産の危機」がマスコミから消えた時期とは一致する。

 

もちろん、安倍内閣は「金融円滑化法期限切れによる中小企業の大量倒産の危機」を解消するためだけにインフレ政策を採用したわけではないが、あれこれ新しい法律を作ったり、金融機関に対する過剰なまでの行政指導を繰り出すことよりも、インフレによって中小企業問題を解決できると麻生太郎氏が判断しことは、まず間違いないであろう。

 

一方、この秋に消費税増税断行の方針を打ち出したことにより、投資ばかりか消費も火が消え、デフレという怪物が黒い大きなマントを広げて日本全体を再び被うこととなれば、「金融円滑化法期限切れによる中小企業の大量倒産の危機」も再び復活することは必定である.

まだ、小企業者の苦境は、なにも解決していないからだ。

 

                消費税が上がると、中小企業はどうなる②へ

 

 

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2013/07/04

実務経営ニュース7月号に事業承継ADRのインタビュー記事が掲載されました。

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 事業承継ADRとは、事業承継をめぐる争いに弁護士が調停人として中立的な立場に入り、合議によって和解解決をする取り組みです。
 
弁護士後藤孝典が代表理事を務める一般社団法人日本企業再建研究会は、2012年4月法務大臣より認証を受けました。
 
このような事業承継に特化した裁判外紛争解決手続(ADR)認証を受けている組織は日本で一つしかありません。
 
税理士、公認会計士、中小企業診断士、不動産鑑定士、司法書士といった専門家が調停補佐人につきますので、和解と一口にいっても、株価の評価、不動産価値の評価、実現するための登記可能性までに配慮した和解を結び、円満解決を抜本的に図ることが可能な仕組みです。
 
例えば、相続発生に伴う『タテ型』事業承継の場で、営んでいる事業の価値が分からず兄弟姉妹間でどのように分割すればよいか分からない場合、
事業承継ADRという『穏やかな』方法による紛争解決方法があるということを是非、税理士の先生方に広く知っていただき、利用していただきたいと思います。
 
顧問先にこのような争いが生じた場合、税理士として巻き込まれてしまうと、どっちの立場に立つのかと追求されたり、気がつけば非弁活動を行ってしまっていたということが少なくないのではないかと考えます。
 
また、対立のあった顧問先に歩み寄りが見られそうな場合、後日紛争の蒸し返しの無いように事業承継ADRで和解契約を結ぶという活用方法もあります。調停人の弁護士が和解契約書を積極的に作成いたします。
 
詳しくは、研究会HPをご覧下さい:http://www.kigyosaiken.or.jp/index.html
 
                                                                    文責:弁護士後藤孝典

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2013/03/01

税理士新聞にADRの書籍が紹介されました。

1月25日付けの税理士新聞で当研究会のADR書籍が紹介されました。

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法務大臣認証第113号 事業承継ADRセンター

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