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理事長後藤の日記

2012/12/26

あなた、元本、返済できますか?<後編>

金融庁の不可解な行動を追いかけるようにして、中小企業庁も奇妙なことを始めた。

まず、平成24年4月20日、内閣府、金融庁、中小企業庁の三庁連名で「中小企業金融円滑化法の最終延長を踏まえた中小企業の経営支援のための政策パッケイジ」が公表された。このとき以降、金融庁も中小企業庁も、この政策パッケイジの大枠の中で動いている。この意味で重要な文書である。

このパッケイジの中で、「金融機関によるコンサルティング機能の一層の発揮」というタイトルの下に、「抜本的な事業再生、業種転換、事業承継等の支援が必要な場合には、判断を先送りせず外部機関等の第三者的な視点や専門的な知見を積極的に活用するよう」という大方針が打ち出された。

金融円滑化法が期限切れになることによる大混乱を抑制するため、顧客が事業再生、業種転換、事業承継を必要とする状況があれば、金融機関はコンサルティング業務を行うべきだ。そして、「各地域における中小企業の経営改善・事業再生・業種転換等の支援を実効あるものとするため、、、、金融機関、事業再生の実務家、法務・会計・税務の専門家」と協力関係を構築せよという。

しかし、よく考えてみれば、顧客が事業再生を必要とする事態とは、資産売却、債務切り下げなどのため裁判所に特別清算とか民事再生開始決定の申立をする段階までいたっている。いわば倒産手続を取りなさいと助言することを意味している。顧客が業種転換をするときとは、今の事業に将来性がない事態である。要するに顧客に、あなたはダメだから事業を止めなさいと助言することを意味している。

顧客が事業承継を必要とする事態とは、今の経営者では役立たずだから別の人に交代するとか、事業を第三者に譲渡しなければならない事態である。つまり、コンサルティング業務を強化せよとは、銀行に、倒産の淵に立っている将来見通しのない顧客企業については、倒産に向かってその背中を押してやる役割を果たしなさいということを意味している。
そして、ご丁寧にも、背中を押す仕事をすれば、人の恨みを買ったり、返り血を浴びたりするだろうから、防御のため、弁護士とか公認会計士とか税理士などの専門家を使いなさい、という、なんとも念の入った行政指導だといいうことになる。

金融機関が弁護士や税理士を使うにしても、だれがその費用を支払うのか、どこにもそれらしきことは書いてない。銀行がそのような費用を負担するはずもない。とすれば、ふらふらになって倒産のがけに立った中小企業が負担するのか?

弁護士や会計士や税理士を組織的に使うために、中小企業庁が珍妙な囲い込みを始めた。金融円滑化法の期限切れ以降も、中小企業が金融機関から融資を受けられるようにするには、中小企業は金融機関に経営再建計画を作成して、融資を受けた資金は返済可能であることを説明できなければならないが、その助言をする専門家「経営革新等支援機関」として中小企業庁が認定をします、という動きを始めたことだ。

事実、中小企業は、平成24年8月30日から「中小企業経営力強化支援法」という法律が施行されたとして、その法律に基づいて「経営革新等支援機関」の認定業務を始めた。この11月末には現に2000名ほどの認定を受けたものの氏名が公表された。しかし、実のところ、「中小企業経営力強化支援法」などという法律は存在していない。

確かに「経営革新等支援機関」を認定し、認定された「経営革新等支援機関」に行政的便益を与える内容の(その正式名称は、あまり長たらしくてここでは書いてられない)法律はあるが、それは新しい事業を始めるとか、新しい製品、新しい役務を提供する「新事業」を始める場合のための「経営革新等支援機関」の認定であって、ここで問題になっている金融を得る見込みも立たないような中小企業のために「経営再建計画」を作成する話とはまったく別の話である。中小企業庁は別の法律を利用して法律に書いてもいない認定制度を始めたということだ。

法律上の根拠があろうがなかろうが、とにかく、認定をうけて「経営革新等支援機関」となった公認会計士なり税理士が作成した経営再建計画を金融機関に提出すれば、確かに来年3月末以降も融資が受けられるというのであれば、まあ、いいではないか、ともいえるが、問題は、その保証はないことだ。中小企業庁が出している認定関係の書類には、それで金融機関が融資をするかどうかは、金融機関が独立して判断することだという記載がある。

どこにも、融資を受けられる保証らしき記載はないし、経営再建計画を作成しても、フィーが貰えるかどうかはっきりしないとなれば、だれがこの仕事をするであろうか。
私の周りの、かなり経験がある税理士たち(つまり、経営再建計画を作成する能力がある人たち)は、一応、税理士の看板を張っている以上、宣伝の意味もあるから認定は取っておこうと思うが、経営再建計画を本気で作ろうと思えば、大変な時間も労力もかかるから、実のところやりたくはない。銀行から頼まれたときは、将来の意味もあるからいやいややるか、或いは顧問会社からたのまれれば逃げられないからやるか、というところだ。

しかし、じつのところ、経営再建計画は、こうこうすれば売り上げはよくなります、あるいはこうするから経費削減ができますとい言うことに尽きるが、企業の経営状況が悪い原因はデフレにあるから、売り上げが上昇するなどと言える場合はまずないだろうし、経費を削減しようとすれば、固定費のうちの人件費を削減するくらいがやっとのことで、そうすれば結局はデフレを促進してしまうから、どちらにしても、『やはり、やりたくはない』といっている。【後編・了】

三橋貴明 新・日本経済新聞 12月21日に掲載されたものです。

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